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トップ10 ブックカタリスト エピソード
Goodpodsは、ブックカタリストのベストエピソード10選を厳選しました。これは、各エピソードがリスナーから得た聴取数といいね数によってランク付けされています。ブックカタリストを初めて聴くなら、これらの傑出したエピソードから始めるのが最適です。番組のファンなら、エピソードページにコメントを追加して、お気に入りのブックカタリストエピソードに投票してください。

BC112 『脳と音楽』後編
ブックカタリスト
04/22/25 • 64 min
本編で触れたグレゴリオ聖歌。「こんな感じ」というイメージが伝われば幸いです。
グレゴリオ聖歌のミサ | 1 時間の神聖な聖歌隊の音楽と賛美歌 - YouTube
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。
今回は、『脳と音楽』の後半を語りました。そして、今回は最終的な結論として一番「人文学」っぽい観点で話を締めることが出来たんじゃないかな、と思ってます。
音楽、という言葉一つにしても、前回話したような人体の構造に関する話もあるし、音色の話(フーリエ変換)なんかはかなり数学っぽい話。
今回話したようなことは、いわゆる「音楽理論」でもあるし、西洋の音楽の「歴史」でもある。
そして終盤は、音楽とはなにかという哲学的な観点も入ってくる話。
こうやって音楽一つの話にしても、様々な観点で語れる、ということこそが音楽の面白さだし、もっと広い意味で「学ぶ」ということの面白さなんではないかな、ということを思います。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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BC108『「学び」がわからなくなったときに読む本』
ブックカタリスト
02/25/25 • 71 min
今回は『「学び」がわからなくなったときに読む本』を取り上げました。
7つの対談が収められたすべての章が面白いので、今回は各章から話題をピックアップし、ごりゅごさんと話し合いながら進めるといういつもと違った形を採用しております。
おそらくこのポッドキャストを好きな方ならば、「学び」がたくさんある本だと思います。
あらためて「学び」について
というような感じで、私たちは日常的に「学び」という言葉を使っています。上記のように「学びがある」という形が多いでしょうか。
その言葉のニュアンスを探るなら、「有益な知見が得られた。示唆に富む内容だった」あたりでしょうか。素晴らしい体験です。
でも、おそらくそのままでは知識が増えただけです。ネットワーク的に言えば、どこかのノードに子どものノードが一つか二つ増えただけ。ネットワーク全体の組み換えなどは起きていないでしょう。
言い換えれば、すでに自分が所有している文脈に引きつけて情報を理解した、ということです。
それ自体はまったく問題ありません。問題は、そこからどうするのか、です。
関連する情報も探りまくる
似たような問題を考えまくる
実際に自分でやってみまくる
何らかの心情に突き動かされて、そういうことをやってみる。時間と手間をかけてみる。他の人からみたら、「なんでそんなに熱心にやっているの?」と思われる(あるいはあきれられる)ことをやってみる。
そうすると、単に知識がインクリメントされるのとは違った経験がやってきます。考え方や物の見方そのものが変質してくるのです。『勉強の哲学』は、その一次的な変化を「キモくなる」と呼びました。実際そのとおりなのです。
知識が増えただけなら蘊蓄を披露する回数が増えるだけですが、考え方や物の見方が変わったら、それまでうまく調和していた場(≒人のネットワーク)から外れることになります。
こういう風に記述すると、ちょっと怖さを感じてしまうかもしれません。それは自然な反応でしょう。やすやすとできることではない。それが自然にできるレアな人もいるでしょうが、自分が属する場からはじかれてしまうことに深いレベルで恐怖を感じることは多いかと思います。
だからこそ「場」が大切なのだ、と私は思います。
「最近、こういうことをに興味を持っているんです」
「へぇ〜、面白いですね」
という何気ないやりとりが行われる場は、「キモくなる怖さ」を緩和してくれるように思います。
もちろんその場はスペシフィックな、あるいなアドホックな場であることが望ましいです。言い換えれば、その場がその人の人生そのものにはならないこと。一時的・限定的にそこにいくけども、そこから帰っていく別の場もある。生活の場。そのような往還が、二次的な変化を呼び込みます。
そのような往還を繰り返す中で、自分自身を変えながら、同時により自分自身であり続けること。つまり、訂正可能性(BC106参照)が示す開きと綴じの可能性がそこにあるわけです。
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BC106『訂正可能性の哲学』と自己啓発
ブックカタリスト
01/28/25 • 59 min
今回は『訂正可能性の哲学』を取り上げました。
主に紹介したのは第1部の内容で、最後に少し倉下の考え(自己啓発の課題)も提示してあります。
本編は 07:30 あたりからスタート。倉下の読書メモは以下のページで確認できます。
家族と思想
本書で一番ビビっときたのが、エマニュエル・トッドの家族と社会体制の関係を補助線にしながら、私たちは「家族」的なものの外側には出られないのではないか、と提示された部分です。
家族の外に出たと思ったら、そこにも家族があった。
フラクタルな構造としても面白いですし、私たちの思考・思想が生まれ育った環境に強く制約されているという点でも示唆に富む提示です。
その上で、です。
私たちたちが生まれ育つ環境そのものが動いている、という点も見逃せません。生活の実態として「家族」的なものが今後変化していくならば、私たちの共同体の思想もその土台から動いていくことが考えられます。おそらくそれは、希望を形作る可能性でしょう(もちろん、絶望に転じる可能性も同時にあるわけですが)。
たとえば、金田一蓮十郎の『ラララ』では、恋愛ではない形で結婚した夫婦が養子を迎え入れるという「家族」の形を提示していますが、そのようなさまざまな形態の家族が増えていけば、私たちの共同体思想も変わっていくのかもしれません。
訂正可能性
本書の中心となるのが「訂正可能性」であり、それは「閉じていながら、開いている」という二重の性質を持ちます。また、「訂正可能性」を持つためには、つまり「訂正される」という可能性を担保するためには、それが持続・継続していく必要があります。
開きと閉じの二重性、そして継続性・持続性。
そうした性質が大切だよ、ということを真理の追究や功利主義などとは違った立場から本書は提示してくれています。
ごく卑近な実感としてもその提示には頷けるものがあります。たとえばこの「ブックカタリスト」は、あるブックカタリストっぽさを維持して続けていくことが大切でしょう。ある日聴いたら「楽にめっちゃ儲けられる方法」などが語られていたら残念感が半端ありません。
一方で、そのブックカタリストっぽさは常に更新され続けていくことも必要です。同じでありながら、変化もすること。それがシンボル(ないしブランド)にとって重要な要素です。
それと共に、やっぱり配信を続けていくことも大切です。というよりも、同じでありながら、変化もすることは続けていくからこそ可能なのです。
単に続ければいいというものではないし、単に変化すればいいものでもないし、単に変わらなければいいものでもない。
これらの複合において、はじめて可能になるものがある。
そういう意味で、本書の提案は哲学的面白さ以上に、実践的活動において大切な話だと個人的には感じました。
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BC097『生産性が高い人の8つの原則』
ブックカタリスト
08/27/24 • 61 min
今回はチャールズ・デュヒッグの『生産性が高い人の8つの原則 (ハヤカワ文庫NF)』を取り上げました。
いわゆる「ライフハック」な考え方がたっぷりな一冊です。
書誌情報
原題
SMARTER FASTER BETTER: the secrets of being productive in Life and Business(2016/3/8)
単行本版
あなたの生産性を上げる8つのアイディア 単行本 – 2017/8/30
著者
チャールズ・デュヒッグ
ジャーナリスト。イェール大学卒業後、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。「ロサンゼルス・タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」のライターを務め、現在は「ニューヨーカー・マガジン」その他に寄稿。2013年には「ニューヨーク・タイムズ」のリポーターのチーム・リーダーとして、ピュリッツァー賞(解説報道部門)を受賞。最初の著書『習慣の力〔新版〕』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)は「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラー・リストに3年間も留まった。第2作である本書も2016年、同リストにランクインした。
翻訳
鈴木晶
『愛するということ』、『猫に学ぶ――いかに良く生きるか』、『ラカンはこう読め! 』など多数。
出版社
早川書房
出版日
2024/3/13
目次
第1章 やる気を引き出す―ブートキャンプ改革、老人ホームの反乱と指令中枢
第2章 チームワークを築く―グーグル社の心理的安全と「サタデー・ナイト・ライブ」
第3章 集中力を上げる―認知のトンネル化、墜落したエールフランス機とメンタルモデルの力
第4章 目標を設定する―スマートゴール、ストレッチゴールと第四次中東戦争
第5章 人を動かす―リーン・アジャイル思考が解決した誘拐事件と信頼の文化
第6章 決断力を磨く―ベイズの定理で未来を予測(して、ポーカーに勝つ方法)
第7章 イノベーションを加速させる―アイディア・ブローカーと『アナと雪の女王』を救った創造的自暴自棄
第8章 データを使えるようにする―情報を知識に変える、市立学校の挑戦
付録―本書で述べたアイディアを実践するためのガイド
「生産性を高める」とは
インターネットの仕事術系情報では「生産性向上」や「productivity」といった言葉をよく見かけるわけですが、そのたびに私は「むむっ」と警戒フィルターを発動させます。
というのも、単にそれが「タスクをたくさんこなすこと」を意味しているのではないか、あるいは生産性向上のためのツールを使うことそのものが目的になっていないか、という懸念があるからです。
実際、一時間のうちに実行できるタスクが10から20に増えたとしても、そのタスクが効果を上げていないことは十分ありえるでしょうし、タスク以外の目を向けるべきものから目を逸らしてしまっていることもあるでしょう。はたしてそれは望ましい「改善」と言えるのでしょうか。
一方で、たしかに効果的(エフェクティブ)な状態というのはあって、メールを書こうとして、なかなか取り掛かれずに、インターネットを彷徨っている間に、新しいツールの情報を見かけて喜び勇んでダウンロードしてしまっている、という状態はあまり効果的な時間の使い方ではないとは言えるので、何一つ改善を試みようとしないというのも、それはそれで違う気がします。
本書では、「生産性を高めるのに必要なのは、今よりももっと働き、もっと汗を流すことではない」という明瞭な指針が掲げられていて、「まさにその通り」と強く感じられます。
以下のような定義も登場しますが、
最少の努力で、最大の報いが得られる方法を見つけること
体力と知力と時間をもっと効率よく用いる方法を発見すること
ストレスと葛藤を最小限にして成功するための方法を学習すること
大事な他のことをすべて犠牲にすることなく、何かを達成すること
これに納得できる人もいれば、そうでない人もいるでしょう。
それでも「生産性とは、いくつかの方法を用いて正しい選択をすることである」という根本的な方向性については同意できるのではないでしょうか。
さらに言えば──本編でも語っている通り──、「正しい選択をするために、自分は有効な方法を使っている」という感覚を持つことが、人生全般にわたる「やる気」の高め方なのかもしれません。This is Lifehacks.
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BC102 積ん読の効能
ブックカタリスト
11/19/24 • 56 min
今回のテーマは「積ん読の効能」。『積ん読の本』で語られていたことを眺めながら、本を積むこと、本棚に本を並べることについて考えます。
積ん読とは何か?
「積ん読」は、なんとなく意味がつかめる言葉ではありますが、本を読む生活を送っている人の感覚からすれば、「読むつもりはあるが、まだ読めていない」状態をさすことが多いようです。
辞書などのようにそもそも読了するような目的を持たない本が読み切られていなくても、それは──感覚として──積ん読とは呼ばないわけです。
言い換えれば、読もうと思って買ってはいるが、その思いがまだ達成されていないわけで、そこに罪悪感が発生する余地があるわけですが、その点を気に病んでいる方はほとんどいらっしゃいませんでした。そんなことを気にしていても埒が明かないということはたしかです。
では、なぜそんな状態が生まれてしまうのか。つまり、読もうと思って買っているのに、読めていないという「読書の渋滞」のようなことが生まれてしまうのか。
本書を読めば多方面からの分析が可能だとわかります。
本を読む経験が増えると、読みたい本が等比級数的に増える
新刊で見つけたうちに買っておかないと書店からなくなる
書店からなくなると「見えなくなる」ので本の存在自体を忘れる
絶版になれば入手も難しくなる
日常的に広告情報に触れているので「読もう、読みたい」と思える本の数が増えている
大人になると忙しくなるので本を読むための時間が減少する
以上のような複合的な要因で、読むスピード > 買う本の量 という「積ん読不等式」が成立してしまうわけです。
でも、たとえそうであっても構わない。その主張を補強する理由もさまざまなものが本書では見つけられます。
知のインデックス
そうした理由のうち、私個人として採用したいのが「知のインデックス」をつくるという山本貴光さんの意見です。何かしらの本があり、何某氏が書いており、何かしらの主張がなされている、ということがとりあえず自分の脳内に入っている。そういうインデックスができていれば、必要になったときにその本に手を伸ばすことができます。
現在ではほどんどの本の書誌情報はググれば見つけられますが、逆に言えばググらなければ出てきません。そして、脳内の発想はググらずに起こる現象なのです。自分の脳の奥深くに沈んでいるもの。別のメタファで言えば、記憶のネットワークに織り込まれているもの。それが「使える知識」であり、知のインデックスはその文脈において役立ちます。
そう考えると、私の知的関心はある本の中にどんな記述があるのかよりも、たとえばGTDとツェッテルカステンとPARAとメタ・ノートがあるとして、それらはどのような連関にあって、その連関から何が言えるのかを考えることにあります。いつ誰が、どのように論じてきたのか。そういう流れを踏まえることも大切にしたい。
そんな風にして「本々」(Books)を眺めようと思ったときに、本棚も「自分のノート」として使っていこうとする試みは、はたいへん面白いと感じました。
というわけで、私は「私の本棚」の運用についてヒントを得たわけですが、他の方は他の形で違ったヒントが得られる本だと思います。本の収集癖を強く持っていない方でも楽しめる一冊です。
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BC100ブックカタリスト・ビギンズ
ブックカタリスト
10/22/24 • 83 min
記念すべき第百回は、いつもと趣向を変えて二人の読書の略歴を語ってみます。
二人が紹介した本は
......。
出てきた本をぜんぶ列挙しようとしたんですが、あまりに数が多くなったのであきらめました。
倉下は赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』からスタートするミステリ系統を出発に、神坂一『スレイヤーズ!』から始まるライトノベル・SF・異世界転生もの系統、野口悠紀雄 『「超」勉強法』から始まるノウハウ・自己啓発系統、村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』から始まる文学・ハードボイルド系統が、青年期の読書を構成していました。
事前のメモではそれくらいでだいたいカバーできていると思ったのですが、大学時代はプログラミング言語の本を読み漁っていましたし、コンビニ店長時代では経営学・経済学の本にも手を伸ばしていました。これらも系統ではあるでしょう。かなり多岐にわたっています。
ごりゅごさんはむしろもっと限定的で『三国志』ものを契機に歴史物を中心に読んでおられて、途中潜伏期間があった後、Obsidianによるノーティング技術の向上およびブックカタリストのスタートを契機にして再び読書欲が盛り上がってきたというお話でした。
その一つの契機に「インターネットが未来をワクワクさせてくれるというビジョンがあった」という話は非常に印象的だと感じます。人を本を読む気にさせるものは、やはりそういうワクワク感なのでしょう。「知的好奇心」と言ってしまうとあまりにも漠然としますが、読書というのは平静・冷静な知的活動ではなく、ある種のワクワク感に駆動されるドライブなのだと思います。
読書に歴史あり
そんな風にそれぞれの人にはそれぞれの読書の経歴があります。歴史と呼んでもよいでしょう。
私が今、一冊の本と対峙するとき、その背後には常に私の歴史が蠢いています。その本を読みたいと思うかどうか、読んだ後どう評価するか。そうした反応は歴史に由来するわけです。
だから同じ本でも読みたいと思うかどうか、面白いと思うかどうかは人によって違ってきます。個性による違いというよりも、歴史による違いなのです(あるいは、個性とはそれぞれの人の歴史である、とも言えるでしょう)。
広義で言えば、読書はたしかに「インプット」な活動です。でも、その表現では「歴史」の感覚が立ち上がってきません。均質的ではなく、個別的な活動。一度きりではなく、連続性のなかにある活動。それが読書です。
だから、「本を読むことは、本を読み続けることである」なんてことが言えるかもしれません。
ぜんぜん関係ないですが
二人の読書の歩みはまったく違っているのに、人生の歩み方においてすごく重なる部分があることが今回わかりました。
しかし、考えてみれば、本当になにもかもがまったく違っているならば、こうして二人でポッドキャストをしていることはなかったでしょう(政府が命令して無作為に選んだ二人にポッドキャスト運営を強制しないかぎりは)。重なる部分があるからこそ、活動を同じくしている。でも、多くの部分で違いがある。
たぶん組み合わせというのは、そういう感じのときうまくいくんじゃないかな、なんて思います。
皆さんも自身の読書のヒストリーを振り返り、自分のヒストリーで語ってみてはいかがでしょうか。
ご意見・ご感想はコメントおよびTwitter(現X)、Blueskyのハッシュタグ#ブックカタリストにてお待ちしております。
では、今後もブックカタリストをよろしくお願いします。サポータープランへのご加入も、ご検討くださいませ。
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BC063 『再読こそが創造的な読書術である』
ブックカタリスト
05/09/23 • 58 min
今回は、永田希さんの『再読こそが創造的な読書術である』を取り上げます。
書誌情報
著者
永田希ながた・のぞみ
著述家、書評家。1979年、アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。書評サイト「Book News」主宰。著書に『積読こそが完全な読書術である』(イースト・プレス)、『書物と貨幣の五千年史』(集英社新書)。
出版社
筑摩書房
出版日
2023/3/20
目次
第一章 再読で「自分の時間」を生きる
第二章 本を読むことは困難である
第三章 ネットワークとテラフォーミング
第四章 再読だけが創造的な読書術である
第五章 創造的になることは孤独になることである
ネットワークとテラフォーミング
本書で語られる内容をごく端的に、しかも自己啓発的に言えば「再読することで自分を作ろう」という話ですが、これではあまりにも乱暴すぎるでしょう。本書ではもっと繊細なメッセージが綴られています。
まず、現代を生きる私たちは情報の濁流に飲み込まれやすい環境にあります。これは単に情報の量が多いだけではなく、人の注意を惹きつけ、ある行動へと動員させる力を持った情報に取り囲まれている、ということです。メディアはメッセージでもありマッサージでもあるので、一つの方向に過剰に力がかかっている状態だと言えるでしょう。
すると自分がどんな方向に進みたいのか、といった認識がかき乱されます。にもかかわらず、どこかに向かって進んでしまうのですから非常に厄介な状態だと言えるでしょう。結果、「自分が求めているのはこういうことではなかった」という残念感が生じます。「自分の時間」を消失した状態です。
そうなると、その「自分の時間」を回復させることが急務だと感じられるようになるわけですが、注意したいのは「さあ、自分の時間を回復しましょう」というメッセージもまたマッサージになり、人を誘因してしまうことです。妙なたとえになりますが、独裁をふるう王様を退場させて、別の独裁する王様を据えたのと同じなのです。「民主主義」のようなそれまでとはまったく違うプロセスが確立されたわけではありません。大雑把に言えば別に何も変わっていないのです。
倉下の印象ですが、本書ではそうしたメッセージの取り扱いが非常に慎重に行われています。著者は大切なことを伝えようとしているが、しかしそれを「通りの良い形」ではなく、何か別種の変換を通さないと受容できないような形で伝えている。そんな印象です。
で、本題に戻るとそうした「自分の時間」の回復のために再読という営みが一定の役割を果たすことが語られるわけですが、ポイントは本書において創造がゼロからのクリエーションではなく既存の要素の再配置として位置づけられている点です。
再びよくある自己啓発的メッセージでは「明日から本当の自分の人生を生きる」的なことが語られていて、あたかもそこでは今までの自分とまったく自分がクリエーションされる雰囲気があるわけですが、もちろんそんな魔法のようなことが簡単に実現するわけではありません。できることは、今の自分を少しだけ変えていくことだけです。「今の自分」を捨てることなく、時間をかけて変化させていくこと。
「自分の時間」を回復させるとは、そのようなプロセスを受容することでしょう。つまり、まったく新しい「自分」の創造に駆り立てられるのではなく、今そこにある「自分」について知り、新しいものを取り込んで、少しばかりの差異を生じさせること。その結果を吟味し気に入ったら採用し、そうでなければ抑制する。そうした行為全体に時間を使っていくこと。それこそが「自分の時間」の回復であり、情報の濁流に対して別の軸を立てるために必要なことだと感じます。
■
一冊の本は誰かが書いたものであり、その本を読む行為は──直接的ではないにせよ──その著者との対話を試みている営みだと言えます。しかし一方では、その本のどこにも「著者」なる存在はいません。書かれた文章を読み取り(≒読み解き)、メッセージをくみ出すのは読者その人です。よって、本を読むことは半分では著者との対話でありながら、もう半分では自分自身との対話でもあるのです。
だからこそ、本を読むこと、読み込んでいくことは自分を知ることにつながり、自分を「創造」することにつながります。
と、すでに倉下バイアスでかなり強めのメッセージに置き換えられていますが、きっと皆さんが本書を読んだ印象はまた違ったものになるでしょう。そう、その差異こそが「自分」の源泉なのです。
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ゲスト回BC019『心の仕組み 上』
ブックカタリスト
08/24/21 • 65 min
ゲストはPADAone(パダワン)さん。
Twitter:@pd1xx
Site:アンキヨリハジメヨ
『心の仕組み 上』について
著者は、スティーブン・ピンカー。この界隈ならまず外せないほどの有名人。代表作は『言語を生みだす本能』。ノーム・チョムスキーというこれまた著名な言語学者の影響を受け、「言語」が進化的に獲得された能力(本能)だと説きつつ、しかしそれが他の脳の機能の「副産物」ではなく、言語機能そのものがメインだったと主張しているのが彼の言説の特徴。
その著者が、心(というよりも精神)の働きに注目したのが本書。原題は『How the Mind Works』で1997年に出版されている。日本語訳はNHKブックスの単行本と、ちくま学芸文庫の二種類がある。共に上下巻。今回はちくま学芸文庫バージョンを取り上げる。
上巻の目次は以下。
第1章 心の構造―情報処理と自然淘汰(ロボットをつくるための課題 精神活動を逆行分析する ほか)
第2章 思考機械―心を実感するために(宇宙のどこかに知的生命体はいないのか 自然演算 ほか)
第3章 脳の進化―われら石器時代人(賢くなる 生命の設計者 ほか)
第4章 心の目―網膜映像を心的記述に転じる(ディープ・アイ 光、影、形 ほか)
放送では上巻のみが取り上げられているが、下巻の目次もついでに。
第5章 推論―人は世界をどのように理解するか(生態学的知能 カテゴリー化 ほか)
第6章 情動―遺伝子の複製を増やすために(普遍的な情熱 感じる機械 ほか)
第7章 家族の価値―人間関係の生得的動機(親類縁者 親と子 ほか)
第8章 人生の意味―非適応的な副産物(芸術とエンタテインメント 何がそんなにおかしいのか? ほか)
ざっと目次を眺めると、精神のメカニズム(それが何をしていて、なぜそうするのか)が論考されているのがわかる。逆に、脳という物質からどのようにして精神現象が立ち上がっているのか(なぜ立ち上がったのかではなく、どのようにして立ち上がっているのか)については言及されていないように見えるので、まさに「Mind」がいかに「Work」しているのかを考える本なのだろうと推測できる。
進化心理学
ある意味では、極めてシンプルな主張をする学問。以下は日本語版ウィキペディアからの引用。
進化心理学(しんかしんりがく、英語:evolutionary psychology)は、ヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で生物学的適応であると仮定しヒトの心理を研究するアプローチのこと。適応主義心理学等と呼ばれる事もある。
人間が持つ「心理メカニズム」は自然淘汰の結果獲得されたものである、ということ。人の心は、白紙の状態で生まれて、成長の中でそこにいろいろ「書き込まれていく」というスタンスとは異なるというのがポイントになる。
前者は生得論的な捉え方で、後者は経験論的な捉え方と言える。後者はたとえば、ジョン・ロックのタブラ・ラサが代表例である。
正直この二つのどちらが「正しいのか」という議論は生産的ではないだろう。生得的な部分があり、文化的に獲得される部分があり、その二つ以外によって獲得される部分がある、と捉えるほうが自然である。一方で、どの部分がどれほどの割合を持つのか、あるいは強さを持つのか、という主張はありえるし、それによって「人間の心」をどのように扱うのかも変わってくる。でもって、それは政治的なスタンスに関わるので、これは結構議論を呼ぶ分野である。
付言
もし、「進化」について知識の枝を伸ばしていくならば、まずリチャード・ドーキンスは欠かせないし、分厚い本がお好みならダニエル・デネットに手を伸ばすのもありだろう。
心身問題(心脳問題)であれば、古くはデカルトを起点として、新しくは脳科学を起点として(たとえば『意識はいつ生まれるのか 脳の謎に挑む統合情報理論』など)、枝を伸ばすのが面白い。とにかくこの分野は話題がいろいろ出てくるので、結構沼である。
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BC018 アフタートーク&倉下メモ
ブックカタリスト
08/17/21 • 47 min
倉下メモ
意志力のお話です。認知資源という言い方をしてもよいでしょう。倉下はその概念を伝えるためにMP(エムピー)というたとえをよく使います。メンタルポイントでも、マジックポイントでも、その他その人がイメージしやすい何かであればよい、というゆるい意味でのMPです。
それは使ってしまうとなくなってしまう。なくなってしまうと「思うようにできない」。それがHPとは別にある。
そういうイメージです。これは、総合的な意味での体力の一部なのですが、一方で体は動くけれども判断力が摩耗している状態というのがあって(仕事終わりにスーパーに行くと実感します)、その辺の感覚を捉えるためにMPという概念を錬成したわけです(MPと聞くとゲームに親しんでいる人は自然とHPと別のパラメータだと認識するからです)。
いろいろ厳密に考えていくとMPというたとえでは無理な部分もでてきますが、そもそもたとえは厳密に一致するものではないからたとえなわけですから、個人的にはそれで十分だろうと考えています。とにかく「難しい問題に判断力をつかうと、その後はその力が弱ってしまう」ということが伝わればOKかな、と。
で、ゲームのイメージでもわかりますが、それって夜寝て朝起きると回復しているんですね。実は仮眠しても戻る感覚があります。つまり、MPのイメージを持てば、具体的にどのように対処すればいいのかのイメージもわきやすい、というわけです。だいたいのゲームでは、HPを回復するアイテムは入手しやすくてもMPとなると途端に難しくなるので、そういう「希少性の高さ」みたいなものもMPというメタファーには潜んでいるのがお得です。
ようするに、MPというメタファーはそれを(デカルト的な)心身二元論に持ち込みたいのではなく、「個人のパラメータの一部であり、使えば減少していくようなところがある(だから無理をするな)」というメッセージを伝えたいために作った次第です。そこさえ伝わればだいたいOKです。
近隣の本
さて、この手の話は実はいろいろリンクしている話があります。その中でも近隣性が高いのはいかの本。
『いつも「時間がない」あなたに (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 』
『なぜ意志の力はあてにならないのか―自己コントロールの文化史』
2hop先まで提示すると莫大に膨れ上がりますので、まずはこのあたりから探索されるのがよろしいでしょう。
次の本の候補
紹介する、紹介すると言って先送りになっていた『理不尽な進化』を取り上げます。
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BC105 2024年の配信を振り返る(後半)
ブックカタリスト
12/31/24 • 70 min
いよいよ年末です。
今回も前回に引き続き一年間の配信を振り返ってみました。7月から11月までの配信の振り返りです。
2024年の配信(後半)
2024年07月02日:BC093「自分の問い」の見つけ方
2024年07月16日:BC094 『熟達論』
2024年07月31日:BC095『BIG THINGS』から考える計画問題
2024年08月13日:BC096 人間の色覚と色について
2024年08月27日:BC097『生産性が高い人の8つの原則』
2024年09月24日:BC098 『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン) デジタル時代の「集中力」の科学』
2024年10月08日:BC099 論文を書くとはどういうことか
2024年10月22日:BC100ブックカタリスト・ビギンズ
2024年11月05日:BC101 『プリズナー・トレーニング』
2024年11月19日:BC102 積ん読の効能
2024年12月03日:BC103 『肥満の科学』
こうして振り返ってみると、7月からの倉下の紹介本はかなり「実用書」に偏っていたと思います。言い換えれば、思想・哲学的な話が少なかった印象。
ごりゅごさんも同様に、「体」の話が多かったですね。
こういうのはテーマ・リーディングというほど明確な目的意識がないにしても、なんとなくそうなっちゃうという感じがあります。そのときそのときの自分の勢いとか流れみたいなものが傾向をつくるわけですね。
そういう流れは、意識的に生み出すのもそう簡単ではないので、そういう波がやってきたら素直に乗ってみるのも一興だと思います。「そのとき読みたい本を読む」というのは、そういう駆動力を最大限に活かす読み方です。
というわけで、今年もありがとうございました。そして、来年からもよろしくお願いいたします。
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